
貿易事務や生産管理の仕事で、英語でのメールやチャットに少しずつ慣れてくると、多くの人が次の段階で同じ壁にぶつかります。
「英語は書けているはずなのに、仕事が思った通りに進まない」
一方で、単語が分からないわけでもない。
文法が致命的に間違っているわけでもない。
それにも関わらず、
こうしたことが、繰り返し起きます。
では、なぜなのでしょうか。
実は、生産管理における英語トラブルの多くは、英語力そのものよりも
「前提」と「仕事感覚」
の違いから生まれています。
ここで一つ補足しておくと、生産管理における英語トラブルは、
「英語ができないから起きる」
わけではありません。
むしろ、実務では英語がある程度できるようになった人ほど、
「これくらい伝わっているだろう」
と判断してしまいます。
その結果、認識ズレや納期トラブルにつながるケースを何度も見てきました。
つまり、生産管理の英語で本当に難しいのは、単語や文法ではなく、
「どこまで確認するか」
「どこで止めないか」
という仕事の姿勢そのものです。
この記事では、繊維商社で中国・ベトナム工場を担当していた筆者が、実際に経験したトラブルをもとに、
を、具体例とともに整理していきます。
生産管理で最も多く、かつ最も神経を使ったのが納期に関するトラブルです。
正直なところ、最初の頃は
「英語で納期確認さえしていれば大丈夫だろう」
と考えていました。
しかし実際には、英語でやりとりしていても納期は普通にずれます。
むしろ、英語でやりとりしているからこそ、
「確認したつもり」
「分かっているつもり」
が重なり、トラブルが大きくなることもありました。
まず押さえておきたいのは、生産管理の英語トラブルは「珍しいこと」ではないという点です。
むしろ、起きて当たり前 と考えたほうが現実的です。
なぜなら、生産管理はもともと、
といった、ズレが許されない要素を扱う仕事だからです。
ここで一度、海外工場との英語やりとりについて整理しておきます。
というのも、生産管理でやりとりする海外工場の多くは、英語ネイティブではありません。
つまり実務では、
「ネイティブ英語」
よりも ノンネイティブ同士の英語 が主流になります。
この前提を理解しているかどうかで、英語トラブルの起きやすさは大きく変わります。
たとえば、日本では、
という意味合いで使われます。
しかしながら、海外工場、特にアジア圏では、
というニュアンスが含まれることも珍しくありません。
つまり、同じYesでも、意味が違う のです。
生産管理をしていると、納期確認の際に次のような返事をもらうことがあります。
Yes, we will try to keep the schedule.
一見すると前向きです。
しかし、実務的にはかなり注意が必要です。
なぜなら、この「try」は、
という意味を含んでいるからです。
そのため筆者は、この表現が出た時点で、
「まだ確定していない」
と判断していました。
この表現に何度も安心させられ、そして何度も裏切られました。
当時の失敗として多かったのは、「try」という単語の意味を理解していながら、
心のどこかで
「まあ大丈夫だろう」
と判断してしまったことです。
結果として、出荷直前になって初めて遅延が確定し、社内・取引先対応に追われることになりました。
この経験から、
「曖昧な表現は、その場で潰す」
という姿勢を徹底するようになりました。
そこで使っていたのが、Yes / No で答えられる質問です。
例:
Can you confirm that the delivery date is fixed?
Is it possible to meet the delivery date without any delay?
さらに、もし難しそうな場合に備えて、
If not, please advise the earliest possible delivery date.
と、必ず次の選択肢を聞くようにしていました。
ここで重要なのは、「守れるかどうか」だけで終わらせないことです。
まず、中国工場とのやりとりで感じていたのは、スピード感と全体優先の文化 です。
一方で、細かいニュアンスや例外条件は、英語だけでは伝わりにくい場面も多くありました。
そのため、次の点を特に意識していました。
実際によく使っていた英語がこちらです。
Please confirm each point one by one.
Please reply with Yes or No for each item.
また、チャットでのやりとりが中心になる場合も多いため、
Please check the previous message carefully.
のように、確認を促す一文を添えるだけでも、認識ズレを防ぎやすくなりました。
一方で、納期以上に厄介だったのが、
「トラブルとして表面化しにくい認識ズレ」
です。
なぜなら、認識ズレは、その場では問題が起きていないように見えるからです。
メールも返ってきている。
Yes ももらっている。
しかし、後工程でズレが一気に噴き出す。
生産管理では、こうしたケースが最もダメージを大きくします
一方で、ベトナム工場とのやりとりでは、非常に丁寧で協力的な印象を受けることが多くありました。
しかしその反面、No をはっきり言わない 傾向もあります。
そのため、
といった質問は、実務ではあまり意味を持ちません。
そこで使っていたのが、次のような聞き方です。
Is this acceptable for you?
If it is difficult, please let us know honestly.
「正直に教えてほしい」という一文を添えるだけで、後からトラブルになる確率が大きく下がりました。
国が違っても、共通して効果的だったポイントがあります。
ここで一度、海外工場との英語やりとりについて、もう一段踏み込んだ視点で整理しておきます。
生産管理の現場でやりとりする海外工場の多くは、英語ネイティブではありません。
そして、こちら日本側もネイティブではありません。
つまり実務では、
「ノンネイティブ同士が、共通語として英語を使っている」
という状況がほとんどです。
この前提を意識しているかどうかで、英語トラブルの起き方は大きく変わります。
それは、
という、ごく基本的なことです。
たとえば、
We need confirmation by June 10.
The quantity is 1,200 pcs.
このように、具体性のある英語は、どの国でも確実に通じました。
これらの表現を使うようになる前は、
「確認してください」
と一言書くだけで済ませていました。
しかしそれでは、相手がどこまで理解しているか分からないまま進んでしまいます。
そこで、確認の言葉を増やすことよりも、
「確認してほしい意図を明確にする」
ことを意識しました。
その結果、修正回数や手戻りが目に見えて減っていきました。
最初の頃は、
「相手の英語が分かりにくい」
と感じることもありました。
しかし、経験を重ねるうちに、問題は相手の英語力ではなく、こちらの伝え方にあると気づきました。
長い文章、抽象的な表現、複数要件を一文に詰め込む書き方は、ノンネイティブ同士の英語では、ほぼ確実に認識ズレを生みます。
つまり、生産管理で使う英語は、ネイティブのように話すことが重要なのではありません。
ノンネイティブ同士でやりとりする前提を理解し、伝え方をシンプルにすることが、英語トラブルを減らす一番の近道でした。
ここまで、生産管理における英語トラブルを、主に事務的なやりとりや確認の観点から見てきました。
しかし実際の現場では、数字や納期だけでは済まない場面も少なくありません。
では次に、生産管理で最も悩む人が多い、
「感情の伝え方」
について触れます。
納期が厳しいとき、トラブルが重なったとき、こちらの気持ちが焦るのは当然です。
ただし、その焦りをそのまま英語にすると、関係が悪化するだけで、問題は解決しません。
生産管理で多くの人が悩む
「強く言いたいが、揉めたくない」
場面について整理します。
海外工場とのやりとりでは、感情的になった時点で仕事が止まります。
だからこそ、感情を抑えつつ、圧は伝える英語 が重要になります。
まず、いきなり要求から入らないことが大切です。
We understand your situation.
However, this delivery date is very important for our customer.
「理解している」→「重要である」
この順番を守るだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。
納期が迫っている場合、次のような表現をよく使っていました。
Sorry for the urgency,
but this matter is very critical for us.
We are under strong pressure from our customer.
ここで重要なのは、怒っているのではなく、状況が厳しい という事実を伝えることです。
英語が得意でなくても、感情はシンプルな言葉で十分に伝わります。
To be honest, we are in a very difficult situation now.
We really need your cooperation.
このような表現は、相手との関係を壊さずに、協力を引き出しやすくなります。
これらの表現を使うようになるまでは、
「強く言わなければ伝わらないのではないか」
と不安に感じていました。
しかし実際には、感情を抑えつつ状況の深刻さを伝えた方が、相手の対応は早く、協力的になるケースが多かったです。
生産管理の英語では、怒りよりも
「困っている」
「助けてほしい」
という姿勢の方が、結果的に強いメッセージになります。
つまり、生産管理の英語では、強い言葉を使うことが「圧」になるわけではありません。
感情を抑えつつ状況の深刻さを伝える方が、結果的に相手を動かしやすいと感じました。
最後に、繊維貿易ならではの実務として、書類や画像を添付する際の英語表現について触れておきます。
生産管理の現場では、文章よりも資料や画像の方が重要なケースが少なくありません。
しかし、
「添付しました」
と伝えるだけでは、相手がどこを見ればいいのか分からないことも多いです。
生産管理では、
など、ファイルや画像を添付する機会が非常に多いです。
ここでの英語表現が曖昧だと、認識ズレが一気に広がります。
Please find the attached file.
Please see the attached document.
この2つは、どの国でも問題なく通じます。
Please check the attached file and let us know your comments.
Please review the attached document carefully.
Please refer to the attached image.
The attached photos show the sample details.
Please check the attached file, especially the highlighted parts.
Please focus on the circled area in the attached image.
この一文を入れるだけで、「見たけど分からなかった」問題が激減します。
Have you checked the attached file?
Please confirm if you have received and reviewed the attachment.
最初の頃は、
ファイルを送るだけで安心してしまっていました。
しかし実際には、添付した資料が十分に確認されていなかったことが原因で、後工程で大きな手戻りが発生したこともあります。
それ以来、
「何を確認してほしいのか」
「どこが重要なのか」
を必ず一文で補足するようになりました。
つまり、生産管理における英語の添付連絡では、
「送ったかどうか」よりも、
「何を見てほしいか」
を伝えることが重要でした。
添付内容のポイントを一言補足するだけで、認識ズレや手戻りを大きく減らすことができます。
ここまで、英語表現そのものに注目してきました。
しかし、生産管理の現場では、
「どんな言葉を使うか」以前に、
「何を前提に話しているか」
が問題になることも多くあります。
繊維・アパレル業界では、業界内では当たり前でも、海外工場には伝わりにくい言葉があります。
例:日本独特の感覚
こうした言葉は、そのまま英語にすると曖昧になります。
そのため、筆者は、
This is final confirmation before mass production.
This sample is for fitting check only.
など、目的を説明する英語に置き換えていました。
つまり、業界内で通じる言葉ほど、海外工場にはそのまま伝わらないということです。
生産管理の英語では、単語を訳すよりも「目的」を説明する方が、結果的に仕事がスムーズに進みました。
生産管理は、人と人の仕事です。
そのため、数字や納期だけでなく、感情を伝える場面も必ず出てきます。

Thank you for your support.
We really appreciate your effort.
Sorry for the urgency,
but this is very important for our customer.
We are in a difficult situation now.
Please help us if possible.
難しい表現は不要です。
短くても、十分に気持ちは伝わります。
ここまで色々書いてきましたが、最終的に一番大切だったのは、やりとりを止めないことでした。
これを繰り返すだけで、トラブルは必ず整理されていきます。
つまり、生産管理の英語トラブルで一番避けるべきなのは、やりとりを止めてしまうことでした。
分からなければ聞き直し、曖昧なら確認し続けることが、トラブル解決への一番確実な方法です。
海外工場との生産管理では、英語トラブルは避けて通れません。
しかし、英語が完璧でなくても、仕事はきちんと進められます。
大切なのは、
ことです。
繰り返しになりますが、特別な英語力は必要ありません。
生産管理の現場で必要なのは、
「曖昧なまま進めない姿勢」と
「伝わるまでやりとりを続ける覚悟」でした。
この記事が、生産管理の現場で英語に悩んだときの一つの指針になれば幸いです。
英語が苦手な状態から、貿易事務・生産管理の英語対応に慣れていった過程については、
「 英語が苦手でもできる貿易事務|生産管理で使う英単語とメールの実例 」
で詳しく紹介しています。
繊維商社の貿易事務のリアルな実体験もシリーズで紹介しています。
◇製作協力
株式会社JJコーポレーション 田中沙織さん