SPAアパレル貿易では、品質トラブルが一度発生すると世界規模の問題に発展します。
本記事では、年間数百万枚規模のSPA取引を担当した筆者が、現場で下した判断と、その裏にあった葛藤を交えながら、品質管理の実務を紹介します。
・SPAビジネスでは、大量ロット生産が前提となるため、品質トラブルが発生した場合の損失規模が非常に大きくなります。
・完成品段階の不良よりも、原材料段階での品質問題のほうが、全量再生産や納期遅延につながるリスクが高くなります。
・SPA取引では、短納期・大量生産・グローバル調達が重なることで、品質トラブルが連鎖的に拡大しやすい構造があります。

こんにちは。
前回より引き続いて、2010年から2020年の10年間の繊維貿易に関して紹介させて頂きます。
前回の記事では、筆者が名古屋の営業部から東京の営業部に異動後に担当する事となったSPAのCSRへの取組に関して説明させて頂いたと思います。
今回の記事でも引き続き「SPAの取引」、その中でも、品質管理に関してお話します。
SPA(製造小売)における品質トラブルは、大きく次の3つに分類されます。
縫製ミスや仕上げ不良など、完成品段階で発生する品質問題
生地・副資材・染色などの素材段階で発生する品質問題
※大量ロットの場合、全量再生産になるリスクが高い
仕様設計やパターン設計が原因で発生する品質問題
※量産後に発覚すると損失が最大化しやすい
本記事では、特に被害が大きくなりやすい「原材料不良」を中心に、実務現場でどのように判断・対応しているのかを解説します。
・製品不良 → 縫製や仕上げの問題
・原材料不良 → 生地や副資材の問題
・設計不良 → 仕様・設計段階の問題
前回の記事でも説明させて頂いていますが、
筆者の担当していたSPAとの取引は、当時で年間数百万枚、取扱金額で$2,000万ドルのオーダーの規模がありました。
そして、ひとつの品番当たりの数量も万単位での発注を頂いていました。
それら大量の商品を生産して、日本を始め世界中の店舗に出荷していました。
そのため、万が一商品に問題がある様な事があれば、とんでも無い事となってしまいます。
それだからこそ、問題製品を発生させないよう、品質管理には、お客様も我々も本当に神経を使っていました。
ちなみに、当時、よく仲間内の冗談で言っていたのですが、
「問題発生した場合に、世界中の店舗を回って検品対応する世界一周検品の旅をする事があれば、誰が行く??」
みたいな事を言っていました。
幸いにも、その様な事は発生しませんでしたが、、、
・SPAは企画から販売までを一貫管理するため、生産量が非常に大きくなりやすいビジネスモデルです。
・大量生産を前提とするため、品質トラブルが発生した場合、単一商品でも企業収益へ大きな影響を与える可能性があります。
・特に海外OEMや委託生産を行う場合、品質管理体制の構築が事業リスク管理の中核になります。
SPA取引における品質トラブルは、大きく
の3つに分類されます。
商品に対する問題といっても様々な物があります。
一つ目は、製品の汚れや、縫い外れ、などの製品単体で起きている問題。
読者の方でこれをイメージされる方が多いかと思います。
他の例では、原材料を問題とした不良も多く、堅牢度不良(色落ちしたり、色が移染したり)の生地で生産されてしまった事があります。
さらに、使用した原材料に有害物質の混入が認められたりしてしまう事もあります。
この場合、全ての製品で起こる。
というよりも、生産した製品の一部で何らかの不良が発生しています。
例えば、一部のロット違いの、追加補充分の原材料だけに発生したりする事が多かったです。
SPAアパレルの品質管理は、原材料から出荷まで多段階で管理されています。
以下は、実務で行われる代表的な品質管理工程です。

特にSPA取引では、Pilot検査とInline検査が品質安定の重要ポイントになります。
輸入物流においても、この品質工程を理解しているかどうかで、トラブル対応力が大きく変わります。
検査業務に焦点を当て、日本国内のJIS規格に基づいた「染色堅牢度」や「物性試験」などの主要検査項目を、実務に即した視点でわかりやすく解説
繊維製品の品質検査とは?OEM・輸入時に必要なJIS規格と試験項目を解説
更には、製品の構造的な問題、サイズ不良、設計上の問題で製品として成り立たない。
更には、企画上の問題。著作権上問題のあるデザインの使用等が挙げられます。
これらは、一部のロットで発生するというよりも、生産した製品全てで発生する事となります。
その結果として、発生した場合とんだもなく大きな問題となります。
最大の注意を払う必要があります。
・品質不良は「製品不良」「原材料不良」「設計不良」の3種類に大別されます。
・製品不良は修正対応が可能なケースが多い一方、原材料不良は生産工程全体に影響し、損失が最大化する傾向があります。
・設計不良は量産後に発覚すると、修正コスト・販売機会損失・ブランド毀損を同時に引き起こす可能性があります。
・原材料不良がどのように発生するのか
・品質問題が商社やブランドへどのような影響を与えるのか
・実務現場でどのような判断が求められるのか
ここまで書いていて思いだしましたが、
筆者は新入社員時代に子供服を担当していたのですが、、、
その際に
「着られないTシャツ」
というのを作ってしまい、お客様から全量返品を貰った経験があります。
なぜ着られないかと言うと、襟ぐりが小さ過ぎてTシャツを着る際に、襟ぐりに頭が通らないからです。
お客さんに納品後、お客さんから小売店に販売、そこで購入された消費者がお子様Tシャツを着せようとしたら頭が通らない、、、、
その様な苦情が殺到して大問題となったのです。
賢明な読者の方はご存じだとは思いますが、
子供、特に乳幼児は体の大きさに比べて頭が大きいです。
なので、当然ながら襟ぐりのサイズは大人用に比べて大きめに作らなければなりません。
しかし、当時は、工場に生産を丸投げしていました。
その工場のパタンナーが着丈に併せて襟ぐり寸法を決めて生産していました。
そのために、頭が襟ぐりを通らないTシャツが大量に生産されてしまったのです、、、、
まあ、名古屋の小さな子供服メーカーのオーダーで、1000枚程度のロットでしたので、大きな金額では無かったですが、、、、
それでも、お客様に一度納品した製品が消費者の指摘で問題発覚して、店頭から製品を引き上げたり、消費者の人に謝罪したりする作業は大変でした。
ちなみに、何件かのお客様のクレームレターを読ませて頂いたのですが、、、
どのクレームレターにも最初に、
「他の子と比べても、うちの子がそんなに頭が大きい方では無いと思うのですが、、、」
という意味の言葉が書いてあったのが、とても印象深かったのを覚えています。
回収した製品は、二束三文の値段でバッタ屋に転売して処理しました。
今となれば考えられませんが、
当時はバッタ屋と呼ばれる不良品を商社から買い取って、安値でバザー、フリーマーケットで販売する会社がありました。
そこは大体、おっちゃんとかおばちゃんが独りで切り盛りしている様な、商店に毛の生えた様な規模でしたが、我々商社マンにとって不良品を処理する大切な存在でした。
さて、話を基に戻して、それぞれの問題に対する対応の仕方も紹介させていただきます。
製品単体の不良は、適切に対応すれば大問題に発展するケースは多くありません。
製品の汚れや、縫い外れ、などの製品単体で起きている問題に対する対応に関しては、比較的容易です。
お客様やからの申入れや、店舗で、汚れや、縫い外れなどの問題製品が発見されることがあります。
その場合、消費者様に対しては、店頭で問題商品を問題の無い商品に交換します。
店舗などで販売前に発見された不良品に関しては、返品をして貰う事となります。
この場合は、大きな問題に発展する事は少ないです。
ただ、同じ不良に拠る消費者クレームや不良製品が何度も続いてくることもあります。
例えば、不良となっている製品の原因が、特定の箇所で縫い外れや汚れなどある。
このような時は、注意が必要です。
製品の特定の箇所ばかり不良発生している事に対して
「何かしらの特殊要因で問題が発生している可能性がある」
即ち、
「他にも潜在的な不良品が多く発生している可能性あり」
と判断される事となると大変です。
まだ、発見されて無いだけで、店頭や倉庫在庫にも、同様の不良製品が多く存在している事になります。
そのため、店舗の製品を検品したり、倉庫にある在庫品の検品等を行います。
それにより、問題発生率の特定、発生範囲の特定をして、必要な対策が求められます。
店頭で行う検品は、お店に普通の買い物客として行き、製品を見る振りをしながら問題が起きている場所をピンポイント目視で確認したりしていました。
問題が発生して居る商品を見つける事は殆どありませんでしたが、見つけた場合はこっそり買いとったりもしていました。
また、倉庫にある在庫品の検品は1シーズンに1度位は行っていたので、筆者も色々な倉庫に検品しに行きました。
その中でも、何度も行った宮城県の倉庫の事をよく覚えています。
朝早い新幹線で宮城入りして、終日検品します。
その上で、帰りに牛タン食べたり、海鮮を食べたりしながら日本酒を飲んでいました。
そして、最終の新幹線で酔っぱらって寝ながら帰るというのが、いつの間にか定番化していました。
最早、ちょっとした旅行的な感覚で行っていました。
もちろん、しっかり検品の作業は行いました。
この様に製品単体で発生する不良に対する対応は、大問題に発展する可能性も比較的少なかったです。
次に原材料の原因での不良発生に関して説明します。

一番怖いのは全ての製品を問題のある原材料で生産してしまうのですが、、、
既述の通り1スタイル何万枚も生産しているSPAの場合、原材料に不良がある場合は全ての生産した製品が販売出来ない不良品となってしまいます。
そういったリスクを抑えるために、何度も原材料の状態や、生地の状態、製品の状態で何度も検査を行います。
本生産用の生地が完成した時点で生地の堅牢度検査、その生地を使って生産した製品での製品検査は当然として、出荷前に生産した製品をランダムに抜き取り製品検査も実施します。
そういった何度も何度も検査を実施して製品に問題が無い事を確認した上で出荷しています。
なぜ原材料不良は完全に防げないのか?
ただ、残念ながら、それでも原材料を原因とした不良は、少なからず発生していました。
その理由は、色々とあるのですが、本当に些細な事であることが多かったです。
不足が発生し、補充生地を手配した部分の生地検査が出来ておらず、その生地が不良となったとか、一部の不足しているSKU、この場合本当に数枚から10数枚規模の不足している特定のサイズ、色の製品の補充の為にSPL用(サンプル用)の生地を使用して本生産を行ったとか、、、です。
そしてその多くは、工場の現場レベルの班長や出荷責任者の判断、別の場合では製品の生産工場では無く、生地工場の担当者の判断で行われる様な事です。
我々や、我々が普段やり取りして居る工場の責任者レベルはその様な事は絶対にしません。
たった数枚の不足部分を補充する為に出荷した結果、余計に大きな問題を抱える事になるのを理解しているからです。
そう言った問題原材料を使用した製品は、大きな数量では無く何十枚、何百枚の単位でした。
何万枚もある全体に比べれば、1%にも満たない量です。
しかし、だからと言って無視して良いかというと、そういう訳には行きません。
その1%以下の該当製品を探すために、どうするのか?
というのがこの問題を難しくする要因でした。
この問題の本質は、万の単位の問題無く生産された商品の中に、何十枚、何百枚と云った不良商品が紛れ込んでしまっているという問題です。
原材料不良の場合は、外見上は全く通常の製品と差異が無いことがあります。
そのために、外見で見分ける事も出来ません。
本当に解決をするのは困難な問題だったと言えます。
筆者も、この原材料不良に拠るクレームは何度か経験があり、筆者の人生の中でも一番大きな損失も原材料に拠る問題でした。
これは筆者が直接担当していたのではなく、筆者の部下が起こした問題ではありますが、、、
その時は、全量の製品を原材料から再手配、再生産しました。
問題の範囲が特定出来なかったのと、出来たとしても相当数の製品が問題でありそうだったからです。
実際に筆者が担当として経験した他のケースでは、工場の現場や、原材料工場へのヒアリングを徹底的に行い、問題の原材料の特定を行い、生産時期、出荷時期、出荷のカートンまで特定して行く作業を行い、ある程度的を絞って返品したり処理したりしました。
それでも千枚単位での製品を不良とする事となりましたが、万の単位での不良製品の発生は防ぐことは出来ました。
検品の基本から、第三者検品の活用法、検品基準書の作り方までを徹底解説
筆者は幸いにも、この製品自体に問題が起きた事による店頭クレーム、全量回収の経験は、SPAとの取引ではありません。
先に述べた、新入社員時代の「着られないTシャツ」だけです。
ただ、当然ながら、他社でその様な問題を不幸にも発生させた話とかは、何度か耳にした事はあります。
この問題は、一度発生すると、損失は天文学的な数字と言えば大げさかもしれませんが、本当に大きくなるのは否めません。
それこそ億の単位になったと聞きます。
そしてSPA側からの取引先としての信用度も大幅に低下する事となります。
・SPA取引では、生産数量が多いため品質問題の影響範囲が非常に広くなります。
・原材料段階で問題が発生した場合、生産ライン全体が停止する可能性があります。
・品質管理は単なる検査業務ではなく、納期・コスト・ブランド価値を守る経営判断でもあります。
品質トラブルは個別判断ではなく、体系的な対応フローに基づいて管理されます。
グローバルSPAにおいて、アパレル輸入やOEM取引では、品質管理の一環として、不良品が発生した際の初動対応が被害拡大を防ぐ重要なポイントになります。
不良対応は場当たり的に行うのではなく、一般的に以下のような体系的フローで対応が進められます。
検品工程・倉庫作業・市場クレームなどを通じて、不良品を確認します。
初動段階では、不良品サンプルの確保と証跡(写真・動画)の保存が重要になります。
不良内容を分類します。
・外観不良(汚れ・縫製不良など)
・機能不良(破損・性能不足)
・規格違反(サイズ・仕様差異)
製造ロット・製造日・製造ラインなどを特定し、問題範囲を明確化します。
トレーサビリティの有無が損失規模を左右
同一ロット以外にも問題が波及していないか確認します。
・他ロットへの影響
・他工場での同様問題
・出荷済商品の影響
ブランド・工場・物流関係者間で情報共有を行います。
この段階で出荷停止や納期調整判断が行われる場合があります。
5Why分析や工程分析を通じて根本原因を特定します。
修理・再検品・再生産などの是正対応を実施します。
検査基準や作業標準を見直し、再発防止体制を構築します。
品質基準を満たしているか最終確認を行い、出荷判断を行います。
このように品質トラブル対応では、
・問題範囲の特定
・原因分析
・物流調整
の3つが特に重要になります。
SPAアパレルの不良品対応では、品質部門だけでなく、物流側の対応も極めて重要になります。
特に以下の判断が必要になります。
・出荷停止判断
・追加検品の手配
・返品輸送の調整
・納期再設定
品質トラブル時に物流を適切に制御できるかどうかが、損失拡大を防ぐ大きな要因となります。
輸入物流においても、出荷停止判断や返品輸送調整など、品質対応と物流は密接に連動します。
問題の内容としては、デザインを重視するあまり耐用度が著しく低く、1度か2度の着用で破損してしまったことがあります。
または、デザインや柄が意匠権に触れる内容であったり、何らかの理由で安全上問題が発生する等です。
これらは、生産した全ての製品で発生するので、全量回収は免れません。
本当に、残念な話です。
そして店頭からの全量回収は、我々取引先のみならず、SPA側の担当者も社内でかなりの減点評価となります。
そのために、新型のデザインとか、新しい製品開発の際は、本当に細かく検証を行い万が一の店頭回収の発生リスクを出来る限り事前に潰していました。
例えば、何度も着用モニタリングを実施しました。
そして、仕様面、使い勝手での不備や安全面での問題は無いか等の確認対応を実施しました。
それでも、全量回収となった場合、回収した製品は、当然ながらバッタ屋に販売なんて出来る訳ありません。
しかるべき産廃業者に依頼して、廃棄処理を行う必要があります。
店舗からの回収費用、回収した商品の廃棄費用は当然発生します。
場合に拠っては、新聞や雑誌への謝罪広告の費用が発生する事も有り得ます。
それらを考慮すると、店頭拐取した際の損失が億の単位になるというのも理解出来ます。

SPAは品質の追及に関して、億単位の費用が発生するとしても妥協無く実施して行きます。
もともと品質に関する要求度は高かったのですが、近年は益々高くなっている印象です。
それは、CSR活動(社会的責任)の一環として品質管理を徹底しているのです。
とりわけ世界各国に店舗を持つグローバルSPAは、厳格な
「グローバル品質・安全基準」
を設定し、各国のアパレル製品に対する基準を超える品質管理を実施する必要があるからです。
今回は、アパレルSPAとの取引における品質管理についてお話させて頂きました。
・SPAビジネスでは、品質管理が企業競争力を左右する重要な経営要素となっています。
・品質トラブルは製造工程だけでなく、原材料調達・設計・サプライチェーン全体で管理する必要があります。
・特にグローバル生産環境では、品質基準の統一と情報共有体制の整備がリスク低減の鍵となります。
引き続き次回の記事では、SPAとの取引に関して記載させて頂きます。
◇製作協力
株式会社JJコーポレーション 吉田修さん