こんにちは。
本記事では、SPA時代のアパレル貿易において競争力の源泉となった「生産進捗管理」について解説します。
SPA 生産進捗管理とは何か?
SPA時代のアパレルにおける企画進捗、生産キャパ、生産計画管理の重要性と現場の実務ポイントを商社の視点でわかりやすく解説します。
今回はその中でも、シーズン序盤における生産進捗管理の考え方と実態に焦点を当てます。

2010年から2020年の10年間の繊維貿易に関して紹介させて頂いています。
今回で早くも5回目の記事となります。
前回に引き続き、SPAとの取組に関して書かせて頂きます。
その中でも、SPAのCSRへの取組、SPAの品質管理、と書かせて頂いて参りました。
今回は、SPAの生産管理に関して記載させて頂きます。
生産管理と聞くと、前回及び、前々回の記事で説明した、CSRへの取組の支援や、生産品の品質管理も、生産管理の一部だと思われる方もいらっしゃるとは思います。
確かに、その通りなのですが、ここではSPAの行っている綿密な進捗や期限を意識した生産管理について説明させて頂きます。
敢えて言うなら生産進捗管理と言えるかもしれません。
生産進捗管理というと、耳慣れない言葉だと感じる方も少なくないかも知れません。
しかしながら、大事なのは、
「 SPAが店頭で製品を販売するに当たり、必要な物を必要な時に販売出来る様に生産を最適化する為の管理 」
と言えば判り易いでしょうか。
抽象的なので、以下詳しく説明させて頂きます。
年間数百万枚を扱った商社マンが語る、品質トラブルの現場と判断

一般的な製造業や小売業とは異なり、SPAは、製造から販売までの一貫したプロセスを自社で管理することに、特徴があります。
製造から販売までを、一気通貫にて自社で行う事が、SPAの強みでもあるのです。
無論、それぞれの製造や販売で協力する取引先企業が居るのは事実ですが、あくまでも主役はSPA自身となります。
製造から販売、そして物流まで一貫して行う事は、いくつかの大きなメリットがあります。
まず、最大の利点は市場の変化に対するスピード対応が可能になることです。
ファッションや消費財の分野では、トレンドの移り変わりが非常に速いです。
そのため、企画から製造、販売までのプロセスを自社で管理することで、消費者のニーズに迅速に応えることができます。
これにより、流行を逃さずタイムリーに商品を展開することができ、競争力を高めることができます。
また、在庫管理の面でも大きなメリットがあります。
販売データをリアルタイムで把握し、それを生産計画に即座に反映できるため、過剰在庫や欠品といったリスクを最小限に抑えることができます。
これは、無駄なコストの削減にもつながります。
さらに、製造から販売までを自社で行うことで、中間業者を介さずに済みます。
その結果、コスト構造がシンプルになり、利益率の向上が期待できます。
加えて、品質管理やブランドイメージの統一も容易になり、消費者に対して一貫した価値を提供することが可能になります。
最後に、販売現場から得られるデータを直接生産に活かすことで、ヒット商品の追加生産や不人気商品の早期撤退など、柔軟な商品戦略を展開することができるのもSPAの強みです。
このように、SPAは店頭の販売で得た市場の動向を、即座に生産の現場に反映させる事が出来、スピード、効率、品質、柔軟性の面で大きなメリットを持つビジネスモデルと言えます。
その強みである、市場の動向を即時に生産現場に反映させる為の管理を、それぞれの情報や、事柄に応じて期限や進捗を管理しながら最適化を目指して行く事。
それが、生産進捗管理の意義となります。
当たり前ですが、最適化を目指すために、CSRへの取組であるとか、品質を疎かにする様な事は絶対にありません。
それらを遵守しながら、マーケットに対して最適化した生産を目指していくのです。
生産進捗管理は、シーズンを大きく分けて 序盤、中盤、終盤 と3つの段階に分けられます。
続けて、それぞれの具体的な管理について、詳しくお話させて頂きます。
先ずは、シーズンの前半にやらなければならないのは、
という、企画の打合せです。
例えば、25FWの場合、
どの位の販売計画を組むか?
等々を落とし込みして行きます。
それらがスケジュール通り進んで行く様に、SPA側、工場側とも、相談、情報共有をしながら進めて行く事となります。
先ず、どの様な製品をどの様な色にするか等の製品の企画、店頭の商品構成等を決めて行かねばなりません。
その内容は、我々が工場や、資材工場から情報を集めて、企画担当者へプレゼンする事もあります。
場合によっては、SPA内で過去の店頭での販売状況、彼らが持つニューヨークやロンドといった海外のファッショントレンド等を考慮して、該当シーズンにおける商品構成が、決められて行きます。
これにより、その商品を実際の製品と同じ色、形、サイズ、配色で製品サンプルを作成します。
そして最終的に、社内会議で承認された後、本発注がされる事となります。
こうやって文章で書くと至ってシンプルなのですが、実際は本当に大変です。
サンプルを確認する社内会議は、SPA側にとっても非常に重要な会議です。
それは、会社の経営層も出席しての会議となるので、そこにサンプルが間に合わないという事になると、切腹ものの大問題となります。
我々としても、その様な問題にはなりたくないので、なるべく早め早めで進めて行きたいのですが。
ともかく、企画の方は、忙しいのか、段取りが悪いのか、決断力が無いのか、なかなか明確な指示が出してくれません。
サンプル進行する色や、形の指示を受け取りに商談に行っても、何の連絡も無くキャンセルされた経験も何度もあります。
この一番最初の指示は、本当に出て来るのが遅かったです。
そして、やっとの事で指示を頂いたとしても、そこからも大変です。
形にしても、色にしても、寸法にしても、何種類も候補がある中から検討して行く事となります。
そうした理由から、それこそサンプルの手配が、ネズミ算式に増えて行く事となります。
とかあると、それだけで144種類(10x3x3)も異なるサンプルが必要となって来ます。
更に、それをS,M,L各3枚とかとなると、それこそ凄い量になります。
もともと、物凄く厳しいスケジュールでサンプル依頼が出て来ている中で、サンプルの量も多いです。
結果として、工場のサンプル担当者に、徹夜でサンプルを作成して貰う事も一度や二度ではありませんでした。
今にして思えば、
企画担当の方の立場で考えれば、製品の売れ行きは自身の評価に直結します。
これににより、その状況の中で、色や形を決める決断というのは、なかなか難かったんだろうな、と想像は出来ます。
とはいうものの、ともかく会議前のSPLを間に合わすのは本当に大変でした。
何とかSPL(サンプル)を間に合わせても、承認が取れない事も当然ながらあります。
そうなると、また振出しに戻って企画検討から始めてサンプルを作らねばならず、
今考えただけでも寒気がします。
これはどこのお客さんと取引をしていてもついて回る話です。
そのために、読者の方の中でも共感される方も、いらっしゃるかも知れませんね。
企画進捗管理の重要な事項の一つに、
「承認会議までに製品原価を確定させる」
という事もとても重要です。
ここまで価格に関して殆ど触れませんでしたが、
店頭での販売価格を幾らにするかは、商品の売れ行きを左右する重要な要素です。
当然ながら、安くて良いものを販売したいというのがSPA側の要望です。
反面、普通に工場側が原材料費や、加工賃、などなどを計算して導き出した商品原価は、SPA側の希望価格と乖離する事が殆どでした。
マーケットを熟知したSPAの要望する販売価格は、適正な事が多かったです。
商品原価の上昇は、結果として販売価格の上昇につながります。
その結果、販売数量が大幅に減少するケースも少なくありません。
これは、できれば避けたい事態です。
販売数量の大幅な減少は、売上の減少にも繋がります。
無論、SPAにとっても、工場にとっても、我々商社にとっても、嬉しくありません。
その為に、原材料の見直しや、生産仕様の見直し、発注ロットの見直し等をしながら、如何にしてコストを下げるかを検討して行く事となるのですが、
それを説明すると物凄く長くなるので、それは別の機会にさせて頂きます。

企画進捗管理と同様に、シーズン前半の生産進捗管理として重要だった事は、
「生産キャパ&生産計画管理」です。
どこからを、「生産」と位置付けるかという考え方にも拠ります。
現場感覚でいうと、衣料品の実質的な生産といえるのは、生地を裁断して縫製、検品、仕上げして出荷する事を生産とする考えが多いと思います。
ただ、当然ながらオーダーしたからと言って直ぐに生産出来る訳もありません。
その為には、原材料の手配であったり、工場の生産キャパの確保等の業務が発生します。
このSPAとの取引の場合、この生産キャパの確保というのが極めて重要となってきます。
なぜならば、工場の生産キャパには限りがあり、お客さんである小売業が製品を欲しいタイミングというのはほぼ同じです。
秋冬物なら8月頃から店頭に入れたいし、夏物であれば3月くらいから店頭投入したい筈です。
これはSPAだろうと、他の百貨店ブランドも同じです。
その為、納期から逆算しただけの生産の時期というのは、ほぼ同じタイミングとなる事が多いのです。
いわゆる
「工場の繁忙期と閑散期」
とかいう言われ方をします。
とりわけ、SPAのオーダーは数量も多い為に、工場の生産キャパが大きく必要となります。
言い換えると、早めにキャパを確保しなければ、生産したい時に生産出来ず、納期遅れが多発という事となります。
工場側にとっても、SPAだけのオーダーをしている訳でも無いので、事前にどの程度の生産キャパをSPA向けに準備するか等の話をして、無理の無い生産計画を組む事が必要でした。
筆者がもともといた名古屋での営業時代は、筆者自身も、お客さんも、そこまでキャパ管理には注力していませんでした。
当然キャパが足りない、工場のスペースが無いという問題も時にはありました。
とはいえ、数量もそこまで大きく無かった事もあり、何となく工場と、お客さんの方とで納期を調整したり、代替工場で生産対応をしたりすれば何とかなるレベルでした。
なので、最初にSPAの担当になってこのキャパの管理をする様になって、かなり驚いたのを覚えています。
ちなみに、
この「生産キャパ&生産計画管理」、 これらは、当時の筆者の業務の半分を占めると言っても良い位、重要かつ奥の深い業務でした。
具体的に何をするかと言うと、
SPAの該当シーズンの予定販売計画をヒアリングする
それを基に、どの品番をどの月に生産するかを決める
更には、その製品の発注スケジュールも決めていく
という事になります。
なんだ簡単じゃない、
って、殆どの人が思うと思います。ただし、そんな単純な話では無いのです。
まず考えなければならないのは、工場の生産キャパだけではありません。
予定通り生産出来る様に、それに併せて生地や、付属品等の原材料の手配のスケジュールも考えて行かねばなりません。
生産したいタイミングに全ての原材料が揃っている為に、いつ何を発注する必要があるか、
などを細かく管理して行く必要があります。
工場キャパが月に10万枚として、
例えば、
を、生産するとして、7月~9月3ヶ月間の縫製計画は、
7月に生産するA品番を10万枚、8月初めからB品番5万枚を生産。
8月中旬からは、C品番を生産して9月末に終わる。
みたいな計画を立てます。
生産開始の少なくとも2週間前に、原材料が工場に到着する様に、原材料の生産リードタイムを逆算して発注します。
原材料の発注もシンプルではありません。
そこまでで、ようやく最終的な本契約となります。
なぜ、すべてがギリギリかつ、細かなスケジュールのもとで発注されるのか。
それは、SPAが小売店として、消費者のニーズに合った製品を販売したいからです。
こうした小売業の特性によるものです。
小売店の立場としては、できるだけ
といった要素を把握したうえで、発注し、生産したい。
そのため、なるべくギリギリまで判断を引き付けることで、市場動向を見極めたうえで発注し、商品が売れる可能性を少しでも高めたいと考えます。
こうした考え方はアパレル業界ならではの感覚かもしれませんが、バイヤーはよく
「ギリギリまで引き付けて発注する」
という表現を使います。
ここまでこだわるのは、SPAが製造から販売までを一貫して自社で管理し、その強みを最大限に発揮したいからにほかなりません。
シーズン序盤の発注からこの様な感じです。
なので、シーズン終盤の追加発注とかになって来ると、その発注は物凄く複雑かつ実現不可能なものとなってきます。
それは、生産管理の終盤の部分で説明させて頂きます。
取り急ぎ、今回の記事ではここまでとさせて頂きます。
本当は、生産進捗管理に関しての説明は、今回の記事で完了させるつもりでした。
ですが、予想に反して、書く事が多くなってしまいました。
それは、本当に細かくかつ高度な生産進捗管理はSPAの強みであった
「 店頭の販売で得た市場の動向を、即座に生産の現場に反映させる事が出来る 」
を活かす為には、必要不可欠であったからだと思います。
このように、SPAにおける生産進捗管理は、単なる工程管理ではなく、店頭の販売動向を生産現場に即座に反映させるための仕組みそのものでした。
その全体像を理解するためには、まずシーズン序盤の企画進捗や生産キャパ管理を押さえることが欠かせません。
次回の記事では、シーズンの中盤と、終盤の生産進捗管理をさせて頂きます。
年間数百万枚を扱った商社マンが語る、品質トラブルの現場と判断
生産管理のプロが実践!貿易の現場で納期・品質を最適化するオペレーション 1
◇製作協力
株式会社JJコーポレーション 吉田修さん